安倍政治と社会のもろさが白日のもとにさらされた「コロナ危機」 安東彰義さん

今私たちは、文字通り「歴史的な時代」を生きていることを実感させられる。「新自由主義」イデオロギーの際立った特徴は、資源の「選択と集中」にある。利益の上がりそうな領域に全資源を投入し、採算の合わない部門は切り捨てる。今回のコロナ危機にあっては、新自由主義は全く脆弱だったことが証明されたと言えよう。

 二〇〇二年〜三年、世界に広がったSARSは、日本では感染者がほとんど出なかったし、このときの経験は活かされていなかった。今回のコロナ危機にあたっては、東京オリンピックの開催に夢中になり、コロナウイルス対策が遅れてしまった。マスクや検査キット、人工呼吸器や防護服の備蓄・医療体制の整備が極めて不十分だった。

 言うまでもなく、政治を動かすのは人間。その質の劣化が進んでいる。日本の政治は議会制民主主義によって行なわれている。三権分立のもと、行政は内閣が司る。その長は内閣総理大臣安倍晋三であり、その責任は極めて重大である。

 今回のコロナ危機にあたっての政府の、そして総理大臣の果たしてきた施策については厳しく検証が行なわれなければならないと考える。

 

一、「アベノマスク」届かず

 四月一日、安倍首相は全世帯に二枚づつのマスクを配る方針を表明したが、六月になってもまだ配布されていない世帯が数多くある。この間、マスク契約業者との不明朗性と欠陥マスクが発覚した。「全国民に布マスクを配れば、不安はパッと消えますから」との官僚進言があったという。内閣支持率の急降下を何とか食い止めようとの浅知恵であった。そのなかで、埼玉県深谷市の公立中学校では、「アベノマスク」の着用を求める文書を配布したことなど、着用強制の動きすら見受けられた。

 

二、専門者会議の議事録作成問題

 政府は三月に、新型コロナウイルス感染を、公文書管理ガイドラインに基づく「歴史的緊急事態」に指定。政府は「専門者会議」を召集し、意見交換・対策を協議した。議事録作れという野党の要求に対し、菅官房長官は、「専門者会議の議事録作成」を拒否。

 安倍首相は、事あるごとに「専門者会議の助言を得て」を繰り返し、政策決定の根拠にしてきたではないか。このような「ウソとごまかし」を押し通し、国民の目から覆い隠そうとする態度は許すことはできない。

 

三、「持続化給付金」の不透明な委託

 巨額な給付金が「中抜き」されている問題。委託先の団体が、事務の大半を電通に再委託していたことが発覚した。公のお金を私が消費するという「官金私消」は断じて許すことはできない。

 

四、予備費十兆円について

「使途は、感染症にかかる緊急を要する経費に限る」。具体的な使い道については「現時点で予見することは困難」と安倍首相。「政府がお金を使うとき、事前に国会の議決を必要とする財政民主主義は憲法上の原則である。過去にない巨額の予備費の使用を財政民主主義を犯してまで強行しようとする安倍政権の暴挙は許せない。

 

五、自粛要請(自粛警察)について

 政府や自治体は、「要請」という言葉を使いながら実質的には人々の経済活動を制限していなかったか。「全体のために必要な負担はみんなで分ち合おう」という観点からコロナ対策を考えなおす作業が必要と青井未帆学習院大学教授は言

「自粛と補償はセット」であってほしい。甲南大学の田野大輔教授は次のように言っている。「緊急事態宣言が出た時、政府の『自粛』要請に従っていないように見える人を糾弾する人たちが現れた。『権威への服従』がもたらす暴力の過激化といえる。『自警団』的な行動は、ファシズムの根本的な特徴を体現している」と。

 「自粛警察的な動き」の中にあって、改憲策動が見られた。革新懇を始め、多くの市民団体・有志がコロナ危機に便乗した改憲策動反対を表明した。

 

六、国会無視、独断専行の安倍政治(全国一斉休校など)

 コロナ危機に際しての対策は、政府はもちろんのこと、与野党を問わず、国民の代表である国会での討議・審議を経て、文字通り衆知を結集しての対策が求められる。しかし、安倍首相は、あたかも独裁者のごとく、独断専行の対策を繰り返し、国民の支持を失った。

 その顕著な例が「全国一斉休校」である。同様「九月入学」についても安倍首相は前向きな発言をしていたが、これも従来通りとなった。今回のこれらの対策については、とりわけ安倍首相の「独断的な」行動が目についた。そこには民主主義の根幹である開かれた討議と合意が無視されていることが見て取れた。「指導力の欠如」が指摘されると、間違った対応をする安倍首相。コロナ対策の直接の責任者である加藤厚労相、西村経済再生相なども、安倍首相の一言一句を金科玉条のごとく持ち上げ、独裁者のもとでの下僕の姿をさらけ出した。

 

七、新自由主義経済政策がもたらした医療崩壊

 コロナウイルス対策の大幅遅れによる感染者の急激な増大、そして医療崩壊。全国的に院内クラスター感染が広がっている。医師を始め看護師など、第一線で治療にあたっている医療従事者は、文字通りいのちをかけて奮闘している。

 しかし、マスクや検査キットや人工呼吸器や防護服の備蓄・医療体制の整備が極めて不十分で、感染者を収容・治療するベッドの確保も、ままならない状態が続いている。これらの医療危機の最大の要因は、新自由主義政策のもと、医療資源を削ったからに他ならない。新自由主義の限界が明白に証明されたといえよう。

 六月十八日、安倍首相は「社会経済活動を犠牲にするこれまでのやり方は長続きしない。制限的でない手法で経済を回していく」と述べ、経済優先の政策を推進することを宣言した。これこそが安倍首相の「本音」であり、いのち優先から経済第一への開き直りである。

八、国民感情を逆なでする愚行の数々

・ブルーインパルス「感謝飛行」でなく医療支援を!

 五月二九日、医療従事者への「感謝と敬意」を示すとして、入間基地から六機編隊で二十分間、都内上空を飛行した。「ブルーインパルスと共に、医療従事者をはじめとした皆様へ、心からの感謝と敬意を込めて、拍手をさせていただきました」と安倍首相は公式ツイッターで投稿した。屋上で手を振っていたのは、自衛隊中央病院の医療関係者だった。

 このようなアメリカ模倣まがいのパフォーマンスでなく、空前の規模に膨れ上がった軍事費をけずり、厳しい状況にある病院経営を支えるなど、思い切った医療支援に力を尽くすべきだ。

・ソファーで楽曲を聞く首相の「ステイホーム」

 コロナ禍の最中、三蜜・ステイホームなど感染予防対策が示され、一定の効果を上げたと思う。その中にあって、安倍首相はソファーにくつろぎ、コーヒーを飲み、歌を聞く姿の動画を放映した。この動画には多くの人々が反応した。時の最高責任者が「のうのうと」ソファーでくつろぐ姿を見て、その脳天気さに驚かされた。このセンス、この感覚はコロナに苦しむ国民の感情を逆なでした。国民にとっては、悲しくも腹立たしい首相の姿であった。

 

九、死者が少ないのは「民度の違いだ」

 六月四日、麻生財務相は「日本でコロナウイルス感染症による死者が、欧米の主要国に比べて少ない、その理由として「民度のレベルが違う」と発言した。

 世界中で「差別や分断でなく、連帯が大切だ」といううねりが起こっているときに、平気でこうした発言をするとはとんでもないことだ。世界の流れに逆行する言語道断な恥ずべき発言であり、その品性が疑われる。

 

十、メディアを監視・批判する政府広報活動

 政府広報室が「コロナ問題」について、テレビを始めとするメディアの放送内容を監視・チェックしていることが明るみに出された。政権に批判的な意見を述べる識者を名指しで批判・攻撃するなど、民主主義の大原則である言論の自由に対する弾圧にも通じる蛮行である。

 ちなみにその対象とされたテレビ番組は次の通りである。

  テレビ朝日:「モーニングショー」「報道ステーション」

  NHK:「日曜討論」「ニュースウオッチ」

  日本テレビ:「スッキリ」

  フジテレビ:「とくダネ!」

  TBS:「ひるおび」

 

十一、国際社会はコロナ収束に向けて連帯・協力を!

 米国トランプ政権は、自国の思い通りにならないとして、 WHOへの拠出金を凍結したり、脱退をほのめかしたりして、国際協力に大きな困難を持ち込んでいる。また、コロナウイルスをめぐって、中国を激しく非難している。

 世界的大流行(パンデミック)の収束のための国際社会の協調した取り組みが強く求められている。今こそ米中を含む国際社会が、パンデミックの収束に向けて連帯と協力を強める時である。