浮き彫りになった安倍政権の退陣と社会経済改革の必要性 佐々木憲昭さん

新型コロナ感染症の拡大で改めて明らかになったのは、日本の社会が弱い立場の人びとを直撃する構造になっている、ということです。それは、どのようにしてつくられたのでしょう。

 

 ★ひとつは、グローバル化です。

 ヒト、モノ、カネの国際的な交流(グローバル化)が大きくすすんだため、局地的な感染があっという間に全世界に広がり、それを抑えようとして交流を遮断するとこんどは「コロナ恐慌」といわれる世界的な経済危機が生まれました。

 もともとグローバル化というのは、多国籍企業の利益を最優先してすすめられてきたものです。1990年代から、日本の大企業・財界も、生産拠点の海外移転をすすめ「国を捨て」世界でもうけるという戦略を強めました。それは、国内の生産基盤を「空洞化」させました。さらに、アメリカへの「市場開放」もこれに拍車をかけました。

 

 ★ふたつは新自由主義による格差の拡大です。

 その動きを合理化するため、「強い者が一人勝ちして当然」という新自由主義の考え方が生まれました。

 日本の巨大企業・財界もこの考えのもと、ぎりぎりまで「効率化」を追求しました。労働者の賃上げをおさえ、雇用を非正規に切り替え、下請け単価を極端に切り下げ、政府にも、「行政改革」の名で効率的な財界奉仕の仕組みをつくらせました。(拙著『日本の支配者』新日本出版社、参照)

 こうして手にした巨大企業の莫大な利益の多くは、内部留保として企業内部にため込まれました。それは、コロナ危機が発生しても膨らみ続け488兆円に達しました(3月末)。

 しわ寄せは、小売・サービス業などの中小零細企業、非正規労働者など、社会・経済的に弱い立場の人びとを直撃しました。まともな「補償」のない「自粛要請」ともあいまって、それは「すすむも地獄、休むも地獄、戻るも地獄」という深刻な事態を生み出ました。「解雇」や「雇い止め」で職を失った労働者は、5月時点で1万人を超え、格差と貧困をいっそう加速させました。

 

 ★みっつは、医療・保健の破壊です。

 効率最優先・弱者切り捨てという財界主導の新自由主義的な政策は、いのちと健康にかかわる分野にも広げられました。

 「構造改革」と称して、財界と政府は、医療費を徹底的にカットし、急性期のベッドを削減し国公立病院を統廃合し、保健所を減らしました。保健所は、30年間でじつに半分になり、定員は7000人も減少しました。

 「いのちを支える社会的インフラ」ともいうべき分野が弱体化させられたため、ひとたびパンデミックが発生すると、この分野で働く人びとを疲弊させ医療経営にしわ寄せを広げ、国民のいのちを脅かしました。

 

 ★行き詰まった安倍政権を退陣させよう

 しかし、国民の怒りのなかでこのような構造が明らかになり、安倍政権も終わりが見えるようになってきました。黒川前検事長の不祥事ともあいまって世論調査で内閣支持率が激減し、「支持しない」と答えた人は軒並み5060%に達しています。

 悪評高い「世帯30万円」の特定定額給付金は、国民の総反撃のもと、野党が主張してきた「110万円」給付に改めざるをえなくなりました。第2次補正予算では、10兆円にのぼる予備費を積み上げて国民の批判をあび、持続化給付金の「トンネル会社」の存在も怒りを広げました。

 

 今回の新型コロナ危機は、私たちに安倍政権の退陣と社会経済改革の必要性をあらためて問いかけているのです。